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永遠に生きることは可能か?

私たちの寿命はこれまで以上に長くなっていますが、必ずしも完璧な健康状態であるとは言えません。
アンソニー・キング氏が、寿命の延長を試みる研究者たちの話を聞きました。

人間はこれまで、歴史や文学、芸術や宗教を通じて不老不死の概念に固執してきました。
不老不死はフランケンシュタインの創造を駆り立て、ハリーポッターシリーズのヴォルデモートを虜にしました。
中国の始皇帝は不老不死の霊薬を求めましたが、この試みは失敗しました。
過去1世紀の間に私たちの寿命は大幅に延びましたが、永遠に生きるというのは未だ夢のまた夢のような話です。
しかし、科学者の多くは、老化を遅らせより健康的な生活を送ることが可能であると考えています。

加齢とは複雑であり、損傷の蓄積や機能の喪失、脆弱性の増加を伴います。
現代の平均寿命は、青銅器時代の農民と比べて何十年も長く、19世紀の先祖と比べても長くなっています。
人間の寿命が延長を続け、今では世界的には70歳を超え、OECD加盟国の間では80歳を超えましたが、健康寿命の長さが伸び悩んでいます。
「高齢となる人がますます増えていますが、人生のなかで健康状態が悪い期間もまた伸びています。」と、イギリスのグラスゴー大学で加齢に関する研究を行うコリン・セルマン氏は言います。
セルマン氏の研究室の研究者らは、マウスの寿命自体を延ばすことよりも、高齢期に健康で生きられる期間を延ばすことに焦点を切り替えました。

「もはや寿命を延ばすことには重点が置かれていません。」と、イギリスにあるシェフィールド大学の幹細胞生物学者であるイラリア・ベラントーノ氏は同意しています。
「ほとんどの人は、より健康的な生活を送る方法を知ろうとしています。」
科学者たちが本当にアンチエイジングをもたらすと考える化合物がいくつか存在します。
メトホルミン、グルコサミン、そしてラパマイシンが主な有力候補です。
この楽観論は、1990年代には始まった、遺伝子の変化が実験動物の寿命に劇的な影響を及ぼしうるという発見に基づいています。
この発見は、薬で加齢を調節し得るという希望を人々に与えました。
「私たちの研究所は、老化速度を変えることが出来るという理論的枠組みに基づいています。」と、アメリカのカリフォルニア州にあるバック老化研究所(Buck Institute for Research in Aging)の所長を務めるエリック・バーディン氏は言います。
アンチエイジング戦略を取る新興企業は、臨床試験の実施を開始しており、加齢を遅らせるとされるいくつかの薬の加齢関連疾患に対する効果が試験されています。
一般的な症状の殆どは若い人にはあまり起こらないため、加齢に関連した何かしらのプロセスや原因があるはずです。


- 長生きする方法
カロリー制限は、酵母から細菌、幼虫、ハエ、ネズミまで、あらゆる生物にの寿命を延ばす、長年の実績に基づいた方法です。
食料を制限すると成長や繁殖の一時停止ボタンが押され、代わりに維持や復元が促進されます。
近年、カロリー制限の生物学的影響に関する理解が深まってきました。
「カロリー制限は何百もの遺伝子を変化させます。これはわずかな変化などではありません。」と、ベルディン氏は言います。
「これにより、生物のストレス耐性を上げます。」
これは、運動が加齢に対抗する手段である一つの理由かもしれません。

私たちの細胞には、食料の入手可能性を決定するための栄養センサーが備わっています。
「これらのセンサーには、老化速度を制御する巨大な遺伝子プラグラムを調節する作用があります。」と、ベルディン氏は説明します。
残念ながら、カロリーを通常よりも20~40%減らすことは、ほとんどの人にとっては望ましくなく、健康的なライフスタイルにも良い効果はありません。
カロリー制限をそのアンチエイジング効果にも複製することができる分子が探し求められていますが、これは疑似科学の含意があるため多くの分野にてタブーとなっています。

医学におけるアンチエイジングは、アンチエイジング効果を謳う多くの化粧品とは異なり、しっかりとした科学基盤を基にしています。
資産価値10億ドルもの企業が老化細胞の発見に関連していることもあります。
脊椎動物においては、老化細胞は加齢と共に、あらゆる種類の組織に蓄積します。
老化は命を救うものなのです。
何故なら、老化細胞は細胞に保護化合物を分泌させて細胞分裂を止めることで、細胞ががん性に変わるのを防ぐためです。
突然変異遺伝子を持つマウス、そしてヒトは、老化やがんによる早期脂肪を止めると、老化研究の先駆者であるバック研究所の科学者、ジュディ・カンピシ氏は話します。
老化細胞は何千もの化合物を分泌し、その多くは炎症を促進することで組織の修復を助けます。
しかし、これには欠点があります。
「これらの分子のいくつかは、両刃の刀です。慢性的に存在すると慢性炎症を引き起こし、主要な加齢関連疾患の主な要因となります。」と、カンピシ氏は言います。
さらに悪いことに、老化細胞は加齢と共に蓄積し、周囲の細胞をゾンビのような状態にします。

特に不健康な食生活や肥満、喫煙は細胞の老化を促進します。
10年前、カンピシ氏の研究所は老化細胞が分泌する分子40種類を特定しましたが、今でも数百個についてはわかっていません。
多くは、炎症を引き起こし伝播させる小さなタンパク質である、炎症誘発性サイトカインです。
「これらの細胞は適時存在時、様々な病状を引き起こしています。これは決定的な証拠です。」と、カンピシ氏は説明します。
老化細胞はがんの予防に不可欠ですが、高齢期に惨めな状態になる原因にもなります。
「これは皮肉なことに、後年にがんを引き起こし得る腫瘍抑制メカニズムでもあります。」
昨年10月にスイスで行われたバーゼルライフ会議のアンチエイジングに関するセッションの聴衆に対し、カンピシ氏はこのように話しました。
「これを聞いても落ち込んでいないならば、話に集中していなかったのでしょう。」

カンピシ氏は 老化細胞除去薬を使用してこの細胞を死滅させようと試みています。
多くの企業が、この薬剤を開発しています。
サンフランシスコに拠点を置く企業Unity Biotechnologyがリーダー的存在であり、この企業はカンピシの研究所の研究から生まれました。
2018年、Unityは膝の変形関節症患者の老化細胞を標的としていることを発表しました。
関節炎を持つ実験マウスに老化細胞除去薬を注射することで、老化細胞が死滅し、マウスの歩行が改善されました。

アメリカミネソタ州にあるメイヨークリニックが行った研究では、マウスの老化細胞を死滅させるための導入遺伝子を使用したところ、寿命が有意に延びたことが確認されました。
マウスの最大寿命に変化はありませんでした。
治療を受けたマウスも未治療のマウスと同様に死亡したものの、死亡時の健康状態に改善が見られました。
「ここでは、シリコンバレーの住人が好みそうな不老不死ではなく、より健康的な人生を送ることに焦点を置いています。」と、カンピシ氏は説明しています。
彼女は、老化細胞を一掃することができる薬ががん患者の助けとなると考えています。
子供の頃に白血病の治療を受けた成人は、多くの場合、実年齢よりも20歳年老いて見えます。
「私たちは、老化細胞によって加齢が促進された可能性があると考えています。化学療法を行った直後に老化細胞を死滅させることができれば、患者はたくさんの副作用を抱えることなく回復することができるでしょう。」と、カンピシ氏は言います。
彼女は、異なる老化細胞を特定の標的とし、正常な細胞と区別することが困難なハードルであると感じています。」

一旦老化細胞が十分に蓄積すると、組織の環境は再生よりもむしろ線維症や瘢痕化に向かいます。
「これは、病気を発症しやすくする組織の機能不全への第一歩です。」と、ベラントーノ氏は説明します。
彼女は、当初幹細胞が老化から保護されたと考えられたものの、今ではこの説は否定されていると言います。
この分野の多くの科学者と同じように、彼女も老化細胞除去薬は希望の星であると考えています。
彼女は、細胞が老化細胞になるのを防ぐことができる薬の調査をおこなっています。

「老化細胞を死滅させれば、たとえ高齢であったとしても、組織の再生機能が改善し、これにより骨粗鬆症や心血管疾患、さらには数種類のがんを含むいくつかの疾患の発症を防ぐことができる可能性があります。」と、ベラントーノ氏は言います。
「これは、私たちが最も有望であると考える薬です。老化細胞除去薬が加齢関連疾患に効果的であり、かつ安全であることが示されれば、生物学的老化そのものに対して適用できるかもしれません。」
「数年に1度薬を服用することで、老化細胞を一掃し、組織機能を回復できるような薬を開発することが夢です。」と、カンピシ氏は言います。


- 小さい分子標的
加齢の中心となる生化学的経路が3~4個存在するという意見に同意する声が増えてきています。
これは、インスリンやインスリン様成長因子(IGF)などの栄養感知経路における単一の遺伝子変異によって寿命を延ばすことができるという発見に基づいています。
高濃度のIGF1は加齢の加速やがんを引き起こします。
これらの経路にある小さな分子への介入方法については、現在調査中です。

メトホルミンは、2型糖尿病治療薬として最も広く使用されている経口薬であり、世界保健機関(WHO)の必須医薬品リストに載っています。
研究では、中年期からメトホルミンによる長期治療を行うことで、雄のマウスの寿命が延びたことが示されています。
ひとつの研究では、マウスが生後3か月になった時期からメトホルミン治療を開始したところ、寿命が14%延びたことがわかっています。
メトホルミンが最初にヒトに使用されたのは1950年代であり、肝臓のグルコース生産を減らし、臓器をインスリン感受性を上昇させました。
「ミトコンドリア機能を改善することは知られていますが、メトホルミンによる影響を受けるようである経路は他にも山ほどあるため、未だ調査中です。」と、ベラントーノ氏は言います。

メトホルミンのアンチエイジング作用は、インスリン値の低下やIGF1伝達の減少、mTOR経路の阻害、DNAダメージの減少、炎症や細胞老化への良い効果をもたらしてきました。
2016年、アメリカの科学者らは無作為化対照臨床試験、「加齢を標的としたメトホルミン(Targeting Ageing with Metformin: Tame)」の実施を提案しました。
この試験は、65~79歳の患者3,000人を対象としていました。

メトホルミンにはアンチエイジング作用がある可能性があり、非常に安価であるものの、業界を刺激する知的財産はありません。
Tame試験は未だに資金提供を求めており、現状必要資金の半分近くが集まっています。
アメリカニューヨークにあるアルベルト・アインシュタイン医学校は、Tame試験のスポンサーです。
当校はメトホルミンをその他の抗糖尿病薬と比較したところ、心血管疾患リスクを減少させることを見出した、イギリスのUKPDS (United Kingdom Prospective Diabetes Study) について言及しています。
UKPDSでは、メトホルミンがアンチエイジング薬であるならば、加齢関連疾患の減少と関連しているはずだと述べられています。

より懐疑的な人もいます。
「メトホルミンを老化治療薬として商品化することはできないと思います。」と、バイオ医薬品の最高執行責任者であり、juvenescenceの投資家であるアレクサンダー・ピケット氏は言います。
彼はメトホルミンを、人々の寿命を延ばす可能性がある小さな分子への興味を引く存在として考えています。

もう一つの興味深い分子にはラパマイシンがあり、これはイースター島の土壌から見つかった放線菌により作られる抗真菌化合物です。
免疫抑制効果があることがわかっており、移植患者の臓器拒絶反応を予防するために使用されています。
その後、細胞増殖代謝の主な制御因子であるmTOR(哺乳類のラパマイシン標的)伝達経路が明らかになりました。
この栄養感受性経路を阻害することで、酵母や線虫、ミバエ、マウスの寿命を延ばし、加齢関連疾患を予防します。

出典: 2019年1月28日更新 Chemistry World 『Can we live forever?』一部抜粋(2019年6月25日に利用)
https://www.chemistryworld.com/features/can-we-live-forever/3009999.article