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抗生物質の良い副作用

1920年代に抗生物質が発見されたことで私たちはより長く健康的な暮らしができるようになり、抗生物質今ではこれまで以上に広く使用されるようになりました。
抗生物質が処方される主な理由は、細菌感染の治療です。
通常体調が悪くなってから使用が開始され、感染が無くなるまで継続して使用されます。
しかし、抗生物質は何十年間にもわたって使用されてきたにも関わらず、抗生物質が細菌除去以外に身体に与える作用について、私たちは殆ど理解していません。

抗生物質の使用は、人が毎日予防可能な感染症によって死亡している貧困国において特に重要となります。
こうした国々では、病気になる前に抗生物質を投与し、病気を予防するために長期的に使用されることがあります。
予防薬としての抗生物質は、HIVや使用失調、感染リスクの高い子供においてテストしたところ、明らかな健康効果が見られた症状もあれば、全く改善が見られなかった症状もありました。

同時に、世界的な抗生物質の過剰使用により薬剤耐性が増加しており、これは抗生物質で主な感染を除去できなくなってきているということを意味します。
このことは、私たちにとってジレンマとなっています。
弱者を感染から守る必要性と、将来感染治療がより困難になる脅威とのバランスを、どのように取っていけば良いのでしょうか?

抗生物質の作用について理解を深めることで、抗生物質の使用についてより良い選択を取ることにつながります。

60年以上前、研究者らにより、特定の抗生物質には細菌を殺す作用以外による有益な効果があることが初めて発見されました。
最初の抗生物質の1つであるプロントシルを血液に加えると、免疫細胞が細菌を捕獲する機能が向上しました。
皮膚移植前に抗生物質トリメトプリムで治療されたマウスは、未治療のマウスよりも新しい皮膚を維持できた期間が長くなり、この効果は免疫細胞による移植拒絶反応を抑制する薬であるアザチオプリンで治療したマウスとほぼ同等となりました。

最近、経口抗生物質の使用に関する臨床試験10件を評価したところ、抗生物質の治療により子供の成長が促進されたことが示されました。
この成長効果は抗生物質での治療を受けた家畜においても同様に見られました。
感染症の子供だけでなく、免疫系の過活動や不健康な腸により健康的な成長が妨げられている栄養失調の子供においても成長の改善が見られました。

こうした予想外の健康効果の作用は完全に分かっていませんが、このことは薬剤耐性があるにも関わらず抗生物質による健康効果が変わらず見られることの理由である可能性があります。


- いくつかのメカニズム
コトリモキサゾールは、殺菌作用を示す細菌の多くに耐性があるにも関わらず、健康や生存率を向上させる抗生物質の一つです。
コトリモキサゾールは、HIV感染者に使われることの多い薬です。
感染や持続的な炎症(免疫細胞の継続的な活性)はHIVを悪化させます。
私たちのチームはとある研究を立ち上げ、コトリモキサゾールが持続的な炎症を抑えることで、HIV陽性の子供の健康を改善できるかどうかを調べました。

ウガンダとジンバブエで行われたランダム化比較試験では、既に抗レトロウイルス薬とコトリモキサゾールを毎日使用しているHIV陽性の子供を二つのグループに分けました。
一つのグループはコトリモキサゾールの使用を継続し、もう一つのグループは中断しました。
どちらのグループも、ウイルスをコントロール下に置くため抗レトロウイルス薬の仕様は継続しました。

結果、コトリモキサゾールの使用継続により血液中や腸の有害な炎症が減少しました。
興味深いことに、これはコトリモキサゾールによる通常の作用により細菌の数が減り、感染症状が軽減したためではありませんでした。
私たちは、コトリモキサゾールが3つの方法で炎症を軽減したことを見出しました。
一つは、腸の炎症を誘発するビリダンス連鎖球菌群と呼ばれる腸内細菌群を抑制したことです。
二つ目は、血液中の免疫細胞の有害な活性化を直接減少させたことです。
そして三つ目は、腸細胞からの炎症信号を阻害したことです。

私たちの研究は、抗生物質が感染除去以外にも健康促進効果をもたらすことを示した一つの例となりました。


- 有害な副作用
しかし、抗生物質の副作用が全て有益である訳ではありません。
過去数十年間で、身体の表面や体内に生息する微生物(マイクロバイオーム)による健康促進効果が明らかになってきました。
例えば、消化や消化管感染の予防には、多様で安定したマイクロバイオームが必要となります。
HIVのケースで見られたように抗生物質でマイクロバイオームを変化させることで効果があることもありますが、これは有害にもなり得ます。

動物を用いた研究では、抗生物質が体重増加やメタボリックシンドロームのリスクを高めることが示されています。
こうした影響が生じる期間は、まだ成長中の若い動物に抗生物質を投与した際に最も長くなりました。

がんにおいては、腫瘍と戦うため強い免疫反応が必要となります。
抗生物質で腸内細菌を除去することで、この保護作用を阻害する可能性があります。

マイクロバイオームの変更は脳に影響する可能性があり、研究者らは抗生物質治療とメンタルヘルスの間に関連がある可能性を調査しています。
ある研究では、
何百何千ものイギリス人患者の医療記録を調査したところ、抗生物質の使用はうつ病発症リスクの上昇と関連していることがわかりました。
これがどのように起こるかを調べるには、さらなる研究が必要です。


- 抗生物質の選択
ここで、抗生物質を使用すべきか否かという振り出しのジレンマに戻ります。

コトリモキサゾールなどの抗生物質は、感染と免疫機能への複合効果により使用の継続が正当化される可能性があり、これはサハラ砂漠以南のアフリカ地域に住むHIV陽性の子供にとって大きな健康効果をもたらします。
その他の抗生物質の使用頻度増加や、貧困国の別の疾患に対する使用に関しては、利益とリスクを両方考慮に入れて決定すべきです。

抗生物質は動物やがん、裕福な国々において使用される場合、状況が全く異なってきます。
前述の研究で見られた抗生物質の有害な副作用は、抗生物質の処方はより慎重に行われるべきであることを示しています。

すべての抗生物質があらゆる状況に適しているわけではありませんが、私たちはその理由を理解し始めたばかりです。
より良い抗生物質の選択を行うためには、病気を引き起こす感染に対する効果だけではなく、身体機能を変化させ得る隠れた作用についても注目する必要があります。
抗生物質の使用は世界中で広がり、変化し続けているため、その作用に関する理解を深めるべき時が来たのではないでしょうか。

出典:2019年5月6日更新 Independent 『Antibiotics: How beneficial side effects are starting to come to light』(2019年6月13日に利用)
https://www.independent.co.uk/life-style/health-and-families/health-news/antibiotics-benefits-health-immune-system-treatment-a8886046.html