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ストレス社会でうつ病にどう向き合うか…「7つのストップ」と「3つのT」

ストレス社会でうつ病にどう向き合っていけばいいのか。うつ病にならないための「7つのストップ」と、うつ病になった時の「3つのT」など、精神科医で横浜相原病院院長の吉田勝明さんが、BS日テレ「深層NEWS」で分かりやすく解説した。

◆まじめな人が陥りやすい◆

 日本では2つの「スタートの時期」があります。まず、お正月。「おめでとう」とスタートを切って、少し落ち着いた頃に、卒業、入学、入社式がある4月になります。そこでまた、新たな人間関係、新たな仕事、勉強等々と、新しいストレスが加わってきます。何とかうまく乗り切ろうとするけれど、うまくいかず、5月になっていっぱいいっぱいになってくる。こういう時期を、「スプリング・フィーバー」、つまり、5月の風邪とか、5月の発熱と呼んでいます。何とか成績や仕事で追いつかなければと思わず、「まあまあ、これぐらいでいいや」「7、8割でも合格だ」という思いでいられると、うつ病の予防にもなります。

 最近の「悩み・相談」の傾向は図1の通りです。一生懸命追いつかなければと思う人は、基本的には生真面目な人が多い。周りは「十分だよ」と思っても、「いや、まだまだ自分の努力が足りない」と受け止め、どれだけ疲れているのか分からず、オーバーワークになってしまう。

世代的には30代、40代、場合によっては50代、働き盛りの人にもかなり増えています。責任感が出てきて、上司、部下との関係に悩むことが多いと思います。

 周りからみると、仕事ができる、何でもこなしているという方が、部下を育てなければいけない、同僚との人間関係を構築しなければいけないという新たな悩みが加わった結果、このようになっている事例が多くなっているようにも思います。

◆インターネットでコミュニケーション不和◆

 インターネットの発達も、原因の一つかもしれません。電子メールで全てこなしてしまい、席が隣同士で話をしながら「お疲れさん」などと雑談するコミュニケーションが不足しています。隣席の同僚にメールで用件を送り、メールで返事する。目と目を合わせたコミュニケーションの機会が減ってくると、結果的にストレスになるのです。

 雑談は、相手に自分の「弱み」を見せられる場でもあります。鎧よろいを着て難しく固まっているのではなくて、ちょっとした弱みを見せ、相手も弱みを見せれば、いろいろなストレスの発散をするのに大事な時間になります。

 うつ病の兆候としては、睡眠障害が必ず起きます。「7時間寝ているから大丈夫」というのではダメで、朝、起きた時に、熟眠感があったかどうかを聞いてください。食欲不振は、体重まで減れば皆が気付きますが、最初のサインとしては味覚異常があります。元気がない仲間がいたら、「あそこの店のラーメン、好きでしたね」と連れて行く。そのとき、その仲間が「ちょっと最近、味付けが変わっていませんか」と言うようなら、要注意です。食欲不振の一歩手前の状態だからです。

 うつ病の最大の症状として、快楽、喜びの消失があります。おいしいものを食べるのは喜びです。その部分に影響が来ているのが、味覚障害だといえます。ただ、その変化は、互いによく知っていなければ気付きません。だから、コミュニケーションが非常に大事なのです。出社時間が変わったとか、おしゃれだった人が気を使わなくなっているとか、仕事のミスが増えているとか、そうした点に気をつけてあげるといいでしょう。

 夜に考えることも、必ずしもいいとは思いません。まず、自分の仕事をオフの時間まで持ち込むことがよくありませんし、夜中の決断は、必ずネガティブ側に振れます。昼間考えているとポジティブな形に行きます。人生における重大な決断、例えば、離婚や会社をやめるといったことは、絶対に夜に決めてはいけません。ですから、僕はよく、夜9時以降は考えちゃいけないと助言します。

◆7つのストップと「不良長寿」◆

 うつ病にならないために止めた方がいいことを「7つのストップ」として示しましょう。

① 完璧主義
② 自分に厳しい
③ すべてをコントロール
④ 体力や能力を過信
⑤ 見栄みえを張る
⑥ 努力・根性・責任・義務
⑦ いつやるの? 今でしょう!

 「いつやるの? 今でしょう!」を止めろというのは、責任感から「今日中に終わらせなければいけない」と、ついついオーバーワークになるからです。明日でもいいのに、家に持ち帰り、自宅でまでやるのはよくない。完璧主義も止めた方がいい。数学なら1+1は2ですが、我々が生きている世界では1+1は「おおむね2」でいいのです。自動車の運転でも、ハンドルに全く遊びがないと怖くて運転できません。多少の遊びがあるからうまくいくという感覚が大事です。努力・根性・責任・義務も、加減というものがあると考えることが大事です。

 一生懸命がんばっていれば、少しずつ出世して、会社の部長ぐらいにはなるかもしれません。でも、要領がよくなくて、そこから先にはなれない。その状態で、自らに厳しく立ち止まってしまうと、長生きできません。「少しぐらい、さぼっちゃえ」という感覚で、ある程度、自由にやっていると、案外、出世することもあります。同窓会に行くと、学級委員もやっていたまじめな人が、老け込んでいて、不良っぽかった人が若々しくて格好いいなんて経験をしたことはないでしょうか。遊びがあって、クッションを持っていた方が、ストレスをためず、結果的に素晴らしい人生を歩めるのではないかという意味で、「不老長寿」ならぬ「不良長寿」という表現ができると思います。

 症状が深刻になって一番困るのは、自責の念です。周りから「休んでいいよ、ゆっくりしていいよ」と言われても、そう言われること自体が申し訳ないと思ってしまう。ですから、精神科医として、薬を使ったり、いろいろな治療をしたりする前に、自責の念を取り除いてあげることが大事な要素なのです。

 うつ病の人にどう接したらいいか、一言で教えてくださいと言われると、「愛ある無関心」と答えています。無関心がネグレクト(無視)ではいけませんが、かといって過干渉でも困ります。絶対に見捨てず、愛情をもった形で「好きにやっていていいよ」「心配してないよ」「自由にどうぞ」というのが、非常に良い距離感だと思います。

 うつ病と診断された場合、軽度であっても、隠すことで無理が生じますので、やはり、会社や学校に話すべきでしょう。また、会社の雰囲気として、それを受け入れることが必要です。患者さん本人は言いにくいところがあるでしょうから、産業医などが関与し、時間外勤務を制限するとか、ノルマを取り除くなどの対応をして、それ以上病気が進行せず、会社を休まなくても済むような仕組みがいいと思います。

 かつては、福利厚生面で保養所を持っているとか、各種施設の割引が充実しているとか、そんなことが会社のステータスのように思われていましたが、今はメンタルヘルスにきちんと対応できているかどうか、うつ病のような人たちを見守る雰囲気があるかどうかが、会社のステータスの判断基準だと思います。

 うつ病で会社を休職した場合、復職に向けて大切なことは、本人、家族、そして会社の「トライアングル」です。本人の病気が良くなることはもちろんですが、自宅できちんと休める時間を提供する。家で「そんなことでローンをどうするの」「子どもの教育どうするの」などと枕元で言われていては困りますし、会社で「半年休んだのだから、倍働いて返してもらうぞ」というようなことではいけません。トライアングルがうまくいってこそ、初めてきちんとした復職ができます。

 カウンセリングにあたっては、悩み、苦しみを解決する三つの「T」が大事だと考えています。Tear(涙)、Talk(話す)、Time(時間)。感情を素直に表していい、何でも話してください。そして、時間をかけること。時間が解決するのではなくて、時間をかけて解決するということです。

 医者を選ぶ際に考えてもらいたいことは、名医にかかる必要はなくて、良医であればいいということです。名医は何十年勉強しても、なれるか、なれないか分かりませんが、良医は、一生懸命患者さんのことを考え、自分の手に負えなければ、他の医者に紹介できる人です。医者を選ぶのは患者さんの権利ですが、薬を飲んで1週間で「効かない」と言って医者を変えるのはよくありません。うつ病の薬は即効性がなく、少なくとも2週間、場合によっては4週間かけて、初めて効果が出るものが多い。もちろん、人間の関係ですから、「薬以外に治療法は分からない」などと言い、患者さんが何か聞くと面倒くさそうな表情をするような医者にはかからないといった基準ならば、いいと思います。薬だけでなく、気持ちの持ちよう、考え方、そして家族、同僚、皆で協力してやっていくのが、今の時代だと思います。

(2015年6月30日 読売新聞)
情報元 http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=120333&from=popin