電話: (050) 5534-5772

平日09:30~18:30(日本時間)

JapanRx / ループ利尿薬:ダウン症候群の認知・記憶障害に効果

ループ利尿薬:ダウン症候群の認知・記憶障害に効果

ダウン症候群は、21番染色体のトリソミー(21トリソミー)が原因で700出産に1例の割合で起こる先天性疾患であり、先天性の認知・記憶障害の最も頻度の高い原因です。今回、ダウン症候群モデルマウスにおいて、心不全で使われる一般的なループ利尿薬ブメタニド(商品名ルネトロン)が認知・記憶障害の改善に有効であることが、以下の論文で報告されました。 論文 ダウン症候群マウスモデルで興奮性GABAA受容体シグナル伝達の反転がシナプス可 塑性と記憶を改善。 Reversing excitatory GABAAR signaling restores synaptic plasticity and memory in a mouse model of Down syndrome Nature Medicine 2015;21:318‒326 【ダウン症候群モデルマウスではGABAA受容体シグナルが興奮性】 神経には興奮性神経と抑制性神経があり、中枢神経における抑制性神経の主要な神経伝達物質はGABAです。 GABAA受容体は、塩素イオンチャネルを内包するチャネル型受容体です。通常、神経細胞では細胞内の塩素イオン濃度が低いため、GABAが結合しGABAA受容体が内包する塩素イオンチャネルが開口すると、塩素イオンが濃度勾配に従って細胞外から細胞内に流入します。 これによって、細胞内電位がマイナスにシフト(=過分極)し興奮性が低下します。従って、通常、GABA作動性神経は抑制性神経です。 マウスの16番染色体(ヒトの21番染色体に相当)のトリソミーのTs65Dnマウスは、ダウン症候群の良いモデルとされています。同マウスで認知機能・記憶に関係する海馬錐体細胞から神経活動を記録しながらGABAを投与すると、野生型マウスと違って神経発火頻度が濃度依存性に増加します。すなわち、ダウン症候群マウスではGABAが抑制性ではなく興奮性神経伝達物質となっているのです。 これは、次のように考えられています。ダウン症候群マウスでは海馬錐体細胞におけるNa/K/Cl共輸送体(NKCC)の発現が増加しており、細胞内に塩素イオンが取り込まれ、塩素濃度が細胞内において細胞外より高くなっています。 このため、GABAによってGABAA受容体の塩素イオンチャネルが開口すると塩素イオンが濃度 勾配に従って細胞内から細胞外へと放出されます。これによって細胞内電位がプラ スにシフト(=脱分極)するので、興奮性が上昇するのです。 【ループ利尿薬ブメタニドの作用】 NKCCというと、腎臓のヘンレの係蹄に存在し、Naの再吸収を行っているトラン スポーターです。このトランスポーターを標的とする薬物がループ利尿薬であり、 心不全などでうっ血をとるために循環器医師なら毎日のように使っています。そこ で、本論文の筆者らはループ利尿薬のブメタニドをダウン症候群モデルで投与し て、その効果を検討しています。 ブメタニドを投与したマウスでは、GABAを加えると神経発火は減少し、GABA が抑制性神経伝達物質に戻ります。 次に、認知機能・記憶に対する作用をインビトロの行動実験で検討しています。 マウスをあるケージに入れて電気ショックを与え、24時間後に同じケージに入れると、正常のマウスは前日の電気ショック゚を覚えていて一定時間じっとして動きません(この時間を「フリーズ時間」と いいます)。ダウン症候群モデルマウスではフリーズ時間が有意に短縮しており、 これは記憶障害の表れと考えられています。 ブメタニドを投与すると、フリーズ時間が野生型マウスと同程度まで改善します。 このほかにも複数の行動実験を行っていますが、いずれもブメタニドにより認知機能・記憶が改善することが示されています。 【記事元】http://www.tmd.ac.jp