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JapanRx / 2つの抗がん薬が、老化した免疫系を強化することが判明

2つの抗がん薬が、老化した免疫系を強化することが判明

延命薬は、長い間スペキュレイティブ・サイエンスフィクションの中で頻繁に取り上げられてきました。
誰もが遠い未来、平均寿命を3桁まで延ばすことを可能にする発明品の登場を期待しています。
しかし、こうした薬の登場は、私たちが思うよりも早いかもしれません。
水曜日、サイエンストランスレーショナル医療(Science Translational Medicine)に発表された新しい臨床試験では、2種類の既存の薬を低用量で使用すると、高齢者の免疫系を強化し、インフルエンザのような命に関わり得る感染症に身体が対抗するのを助け、また副作用もほとんど無いようであることがわかりました。

この試験は製薬会社ノバルティスの科学者らにより実施され、65人以上の健康な高齢者250人以上を対象に、2013年から2015年にかけて行われました。
ボランティアの被験者は、無作為に5つのグループに割り当てられました。
内2つのグループは、承認済みの化学療法剤及び免疫抑制剤であるエベロリムスを異なる用量で投与されました。
もう1つのグループは、実験的化学療法剤であるダクトリシブを、他の1つのグループはエベロリムスとダクトリシブの配合薬を投与されました。(どちらもノバルティスが開発した薬です。)
最後のグループは、単にプラセボ(偽薬)を投与されました。
各グループは毎日薬もしくはプラセボを6週間にわたって投与され、その後2週間空けて、2014年の季節性インフルエンザの予防接種を受けました。
被験者の健康状態はその後9カ月の間、日記や血液検査を通じて慎重な追跡調査が行われました。

その年の終わりまでの間に報告された感染数は、薬を投与された全てのグループにおいて、プラセボグループより少ない結果となりました。
しかしこの差は、2種類の薬を同時に使用した被験者において最も大きくなりました。
これらの被験者により報告された平均感染数は年間1.49となりましたが、プラセボグループの感染数は2.41という結果でした。
またこれらの被験者は、薬を投与されたグループの中で唯一、プラセボグループと比較して血液のインフルエンザワクチンに対する免疫反応がはるかに優れていることが示されたグループであり、これは予防効果がより高かったことを意味しています。

「これは非常に重要で、将来有望な研究です。」
と、ワシントン大学にある健康的な老化と長寿研究所(Healthy Aging and Longevity Research Institute)の所長を務めるMatt Kaeberlein氏は、Guardianの取材に対して述べています。
Kaeberlein氏は、本研究には携わっていません。

これらの薬は、細胞によるその他物質の生産を助ける酵素であるmTORの生産を抑制します。
しかし何十年もの間、科学者らはmTORが加齢において何かしらの役割を果たしているのではないかと疑ってきました。
マウスやその他動物を対象とした実験では、mTORの機能を停止させたことで、偶然動物の寿命が延びたことが示されました。
mTORが関与する細胞経路にはTORC1とTORC2の2種類があり、アンチエイジング効果との関連が見られたのはTORC1の機能を停止した場合のみでした。
研究者らが低用量を使用した場合、薬はTORC1のみを阻害することがわかりました。

免疫機能を改善するこの作用に、重大な副作用は全く無いようでした。
薬の投与を受けた全てのグループにおいて、プラセボグループよりも多い副作用は見られませんでした。
また、下痢などの薬剤に直接起因する副作用を報告した被験者はいませんでした。
むしろ、これらの薬剤は高血糖や高コレステロールリスクを低下させ、免疫機能を向上するという証拠が示されたのです。

「現在利用可能なデータでは、mTOR阻害薬は臓器移植患者と同様に、高齢者においても安全であることが示されています。このためmTOR阻害薬は、”アンチエイジング薬”の有力候補であるのです。」
と、サンアントニオにあるテキサス大学のヘルスサイエンスセンターで長寿研究を行うDean Kellogg Jr氏は、Gizmodoに送られたメールの中で述べています。
Kellogg Jr氏はこの研究には携わっておらず、別のmTOR薬を使用したアンチエイジング試験を独自に行っています。

「”健康的な高齢者”にmTOR阻害薬による効果が必要であるかを調べるには、さらなる研究が必要です。そして、これは早ければ早いほど良いでしょう。」と、彼は付け加えました。

とは言え、ある程度の注意は必要です。
この研究は、実験的治療における最適な投与量を決定するために使用される、第2相臨床試験の段階にすぎないのです。
次のステップは、より大規模なボランティアグループを対象にこれらの薬の有効性を調査し、ボランティアグループ、特に呼吸器感染による死亡リスクが高い高齢者(85歳以上)において良い効果が見られるかどうかを検討することです。

「私たちの臨床試験は、mTOR阻害薬が人間の健康的な加齢の促進に使用できるかどうかを判断するための最初のステップです。」と、この研究の著者である Joan Mannick氏はGizmodoの取材に対して述べました。
「しかし、私たちには学ぶべきことがまだたくさんあり、この調査結果は追加の臨床試験において再現し、検証される必要があります。」

この試験はノバルティス社の傘下にて実施されましたが、同社はそれ以来アンチエイジング治療に使用されるエベロリムスとダクトリシブ(別名にてライセンスを取得済)の実施権を、研究会社resTORbioに売却しています。
Mannick氏と共同設立された同社は、これらのTOR阻害薬の第2b相臨床試験を主導しており、今年の末までに終了する予定です。

出典:2018年7月13日更新 Gizmodo 『Two Cancer Drugs Found to Boost Aging Immune Systems 』 (2019年6月19日に利用)
https://gizmodo.com/two-cancer-drugs-found-to-boost-aging-immune-systems-1827557162